メンターが気付きを引き出し、その気づきがプランを磨き上げる~ファイナリストの実例から~ 〜その②〜
事例1:Aさんの挑戦 (合宿からセミファイナルまでのプランの変遷)
合宿時点では「収穫体験で集客+直販」というアイデアだったプランが、メンタリングを経て「幼稚園向けニンジン収穫・調理体験」という具体的で収益性の高い事業モデルに変化しました。
Aさんが気づいたのは、
- 「自分にしかできないこと」ではなく「多くの人が真似したくなること」が必要だということ。
- 思いや危機感をプランにしっかり乗せることで、説得力が生まれるということ。
メンターとの対話を通じて、漠然としたアイデアが「数字の見えるビジネスモデル」へ。売上目標も 1,000万円 → 3,700万円 にスケールアップしました。
合宿・メンタリング経過(10月)
- 気づき:「“私にしかできないこと”ではなく、“誰もが真似したくなるしくみ”が必要だ」とのメンターからの投げかけに、自分のプランの広がりを意識し始めた。
- 思考の深まり:「なぜプランに想いが乗っていないのか?」と自問し、自分自身の“農業への危機感”と“参入者として定着したいという思い”を再確認した
- 課題の本質化:他の農業参入者と差別化するには何が足りないのか?→マッチング機会の不足、生産スキル習得の長期性、販売力の弱さなどに気づいた。
セミファイナル時(12月)
- 進化した事業モデル:「幼稚園向け人参収穫体験と調理体験を販売」へ。
- 小規模生産でも利益を出せる仕組みで、収益循環と社会的意義を両立。
- 目指す社会像刷新:「農業参入者が定着し、地域の野菜供給が安定化する地域づくり」という社会像に変更、よりプランが明確になった。
- 売上目標:年間約3,700万円へ規模を拡大した。

メンターとの会話の中で
メンター:合宿はどうでしたか?
Aさん:「私にしかできないこと」ばかり考えて「どうやって人を巻き込むか」を全然考えてないことに気づけました
メンター:どういうこと?
Aさん:私にしかできないことだけでは、私が実現したいことができないと気づかされたんです。多くの農家がマネしたくなるようなことが必要です
メンター:いろんなメンターとのセッションでどんなことを感じましたか?
Aさん:メンターに説明したくても言葉にならなくて。結局、私もわかってないんだ!ってことに気づきました。それと、私自身の思いとプランがずれてるなと感じました。
メンター:どんなところがズレてると感じたの?
Aさん:私自身、3年前に就農して農業のむつかしさは身に染みたんです。と同時に「このままじゃ農業が消える」という危機感と「私が儲けて、農業を生き残らせたい」という思いは再確認できたんです。
Aさん:でも、プランにはその危機感と思いがイマイチ乗っかってなくて・・・
メンター:ほな、そこが乗るようにしましょ。思いの在り処は日常の仕事の中にあるんかな?
Aさん:B県C市の農業と、そこの農家の皆さんですね。私みたいな素人がいきなり飛び込んで受け入れていただいて、良くしてもらってるので。
メンター:その農家さんたちが農業を廃業しようとしてるって、なんでかな?
Aさん:みなさん、本当は続けたいっておっしゃるんです。でも儲からないから子供には継がせられないって。せめてご先祖様から預かった田畑だけでも残したいって。
Aさん:なかには「ちゃんと使ってくれるなら貸してもいいよ」って農家さんもいらっしゃるんですが、借り手がいないから廃業するって
メンター:え、Aさんのような参入希望者はいっぱいいるんでしょ?
Aさん:わたしのいるC市だけでも毎年数名こられます。でも、大半は農地が借りられないとか、借り手もうまくいかずで撤退されます
メンター:ん?貸したい農家さんがいるんでしょ?
Aさん:いるんですが、マッチングする場が無いんですよ。行政は農地貸し借りの仕組みを運営してますが、私たち農外からの参入者が望むような農地を借りられるわけではないので、マッチングする場がもっと必要です。
メンター:そこは何とかしたいところやね~。
Aさん:何とかしたい、で言うと、私のような農外からの参入者が本当に儲かってない現状を何とかしたいです!
メンター:ほな、そこの解像度を上げましょか。Aさんはなんで儲からないの?
Aさん:私は栽培がうまくいってないからです。なので、収穫体験とか直販とか、栽培技術以外のところで稼ぐ仕組みを作ろうとしてます。
メンター:他の要因は?
Aさん:やっぱ、販売ですね。作っても農協や卸売り市場に出荷したら小売価格の3割くらいの単価ですよ!あとは固定費が莫大です。トラクターやらなんやらを新品で買ったら1000万円以上しますもん。私は全部、近所の農家さんにいただいたり借りてるから大丈夫ですが
メンター:畑の確保、生産技能、販売技能、固定費抑制が課題なんやね
Aさん:そうです・・・そういうことか。私自身が思いを吐き出した上で課題整理していただけたら、肚落ちしました。
メンター:で、今、一番気になる課題は?
Aさん:私自身の課題でもあるんですが、農業って生産技能が身につくまでに5年も10年もかかるじゃないですか。参入者が技能を身に着けるまでの間に稼げる仕組みを作ります。
Aさん:というか、合宿で「幼稚園向けにニンジンの収穫体験」って言ってたじゃないですか。合宿から帰って幼稚園にそのアイデアを持ち込んだんですよ。そしたら「やりましょう」となったんですよ!
メンター:その幼稚園でどれくらいの売り上げ見込めそうですか?
Aさん:1幼稚園当たり10万円くらいです。でもこの売上に必要な面積ってたった30平米です。普通にニンジン育てて出荷したら30平米で売上は1万円くらいですよ!10倍になるんです!
メンター:どれくらいの園と契約できそうですか?
Aさん:その幼稚園の副園長さんが私を気に入ってくださって、近隣の幼稚園に売り込んでもらえるんです。10園は堅いとのことです。それに必要なニンジンの面積は300平米ですが、私は今、1万平米の畑を使っているので規模は大丈夫です。
メンター:サービス内容をもう少し肉付けしていきたいですね
Aさん:親子で収穫体験に来るじゃないですか。なので親子に収穫体験した野菜を使ってランチづくり+収穫体験を売りたいんですよね。それがうまくいけば幼稚園だけではなく、「近隣の親子」がターゲットになります。
メンター:なるほど。それを簡単な収支に落とし込んで、プラン全体を描いてみましょう。
Aさん:今の目算では、5年後に売上3000万円くらいになります。
メンター:ビジネスの香りがしてきたね~。
Aさん:はい。ビジネスもですけど、私のような農業参入者が抱える「技能習得に5年以上かかる」「農地が獲得が困難」「固定費莫大」という問題を解決できるビジネスモデルになりそうです!
以上がメンタリングでなされた会話です。
応募時のプランから合宿を経てセミファイナルに向けて少しづつ、変化をしていきます。
プランの進化(Before / After)
項目 | 合宿終了時(Before) | セミファイナル(After) |
プラン名 | ー | 「自分で採った野菜は美味しい!」で素人農家が儲かる |
社会課題 | 耕作放棄地の増加と農業生産者の減少 | B県で農家が減少し続け、数年後に地元産野菜が購入困難になる |
課題の構造 | 農業儲からない⇒後継者不足。農外参入しても生産ノウハウと農地取得困難で定着できない | 農業儲からない⇒後継者不足。農外参入しても生産ノウハウと農地取得困難。農業企業が少なく就職してノウハウ獲得もできない |
解決策としての事業モデル | 栽培がラクな野菜の収穫体験で集客+直販 | 若いニンジンを栽培し幼稚園向け収穫+調理食事体験を販売。生産リスク低下+回転数増加し、利益確保 |
目指す社会像 | 農業後継者・参入者が増え、耕作放棄が減少し、野菜の国内生産確保 | B県農家の収益ポイントが増え、後継者が増え、参入者が定着し、地域の野菜生産が確保される |
売上目標 | 年間売り上げ1,000万円 | 年間売り上げ3,700万円 |
この事例から見えてくる edge の強みについて!
この会話からも、edgeのメンタリングとは何を大切にしているのか?
その姿が見えてきます。
「問い」がプランを進化させる力
メンターとの対話を通じて、「本当に解決したい課題は何か」「なぜ自分がやるのか」といった問いに向き合うことで、課題の構造や自分自身の想いがより明確になります。
アイデアをビジネスモデルに落とし込む力
単なるアイデアで終わらせず、「誰に」「どんな仕組みで」「どのように収益を生むのか」といった観点から整理することで、リアリティある事業モデルへと進化していきます。
数値目標を現実的に設定する力
「どれくらいの売上が見込めるのか」「どのくらいのコストがかかるのか」といった具体的な数字に落とし込むプロセスを通じ、計画に実効性が備わっていきます。
気づきを生む合宿という環境
合宿やメンタリングの場では、他の参加者やメンターとの対話を通じて、自分一人では出せない「問い」と「答え」に出会えます。これがプランを一段上へ引き上げる大きな契機となります。

さて、今後Aさんのプランはセミファイナルからファイナルにむけてどのように変化していくのでしょうか?